DATE 2008. 7.17 NO .



「――どうするの、それ?」

「バチカルへ行って、皆と会うんだよ」

 アニスを訪ねたフローリアンの視界に映ったのは、遠出をするらしき荷物。

「わぁ、綺麗な服。いつもこんなの着てないよね?」

「ダアトで暮らす分には正装もなにも、これで充分だからねー」

 そう言うと、アニスは自分の着衣の裾をつまんで、フローリアンに示すようにひらひらさせる。

「…念の為に調達したの。たぶん着ないけど」

「……」

 フローリアンはアニスの顔を、じっと見つめた。

「いったい何をしに行くの?」

「ルークのための式典があってね、いい機会だから、ついでにちょっと皆で集まろー、みたいな感じかな」

 皆と会う。
 そう言いながらも、アニスの表情は。

「――その割には、あんまり嬉しそうじゃないよね」

「そんな事ないない! ほぼ2年ぶりだし、こんな事でもなきゃ全員集まるなんてなかなかないから――」
「無理しないで」

 荷造りをしながらしゃべっていたアニスが、顔をあげた。

「…フローリアン?」

「僕も、2年前とは随分違うと思うよ。何か不安な事があるなら、言ってみて?」

 アニスはフローリアンの言葉に目を瞠る。そして、その口元が歪んだ。

「…式典、ね。お墓の前でやるんだって。何か、嫌だよね」

 小さな呟きを、フローリアンは確かに聞き届ける。

「お墓の前に立つのはさ、認めてしまう事なんじゃないかって。帰ってくるって約束してくれたルークを…存在を、忘れようとしてるのと、同じなんじゃないかって」

「――だから、『たぶん着ない』んだね」

「…そうだよ」

 ほんの少し、沈黙が流れて。

「皆、あの人の事を待っているんだね」

「うん、待ってる。もう2年も経つけど、ルークはきっと帰ってくる。そう信じて、皆で待つって、決めたから」

「――なら、大丈夫」

 フローリアンも、短い時間ではあったけれど、紅い髪の少年の事をよく覚えている。

「僕にここにいてもいいって言ってくれたのは、アニスでしょ。だから僕は今もここにいる。……あの人も、信じて待ってくれてる人がたくさんいるんだから、きっと、帰ってくるよ」

 きっと、帰ってくる。

「…うん」

 そう、信じようと思う。



 数日後。

「――じゃ、これから出発するね」

「いってらっしゃい、気をつけて」

「ティアもナタリアもガイもきっとお通夜モードだからね! 私が大佐と頑張って盛り上げていかなきゃだよ!」

 いつも通り明るいアニスを見て、フローリアンはくすくすと笑う。

「アニスなら、大丈夫だよ」

「ありがとう、フローリアン。いってきまーす!」

 ダアトの街並みへと消えていく小さな背中を、完全に見えなくなるまで、フローリアンは目で追っていた。



(「向こう側」へ行きたい)
素足で踏みしめる雪の冷たさも忘れて そう思った

その願いは 叶ったから
今度は皆の願いも 叶いますように
僕を受け入れてくれた 皆の 願いを







≪あとがき≫
 2年経って歳相応の面も出てきたフローリアンに、アニスはいちいちびっくりしていればいい。





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